インタビュー #創業支援

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何かをしようと思ったら、自分から出ていくことが大事

めぐる文具店

清原 加奈子さん

2020年2月2日

@megurubunguten

セレクト文具店

どんな内容で起業されていますか?

「comichiかわらぐち」という、10軒ほどのお店が並ぶリノベーション長屋で文具の販売をしていて、2020年3月にオープンしました。古本屋さんとのシェア店舗でお店自体は別のオーナーのもので、私は間借りをして古本部分の管理もしています。

どのような流れで起業されたんですか?

夫から何かしたらと言われ続けていたのですが、自分では、自分で何かをするのは向いていないと思っていました。ですが何年も言われ続けるうちに、「何かしないといけないのかな。するとしたら何かな」と考え始めたんです。夫はたぶん、私は雇われるのに向いていないと思ったんでしょうね。
元々、結婚当初は別の会社で働いていたんですが、子どもができて育休から復帰しようと思った時に祖母の介護が必要になり、仕事は辞めてしまいました。その後、祖母が施設に入ったので八百屋で働いたりラーメン屋で働いたりしていたのですが、娘が1年生になり、学校から帰ってくる時には家にいてあげたいと思って辞めてしまいました。
その頃、夫から北九州市が開催する「起業塾」について教えてもらい、起業するわけではないけれど、どういう感じのものなのか知りたくて参加しました。起業を目指す方たちも多く刺激になりました。
実は、その時にはもうマルシェには出ていたんです。知り合いから声をかけてもらい、文具販売で参加したのが最初でした。その後もマルシェに参加させていただきすごく楽しかったので、マルシェの出店先を調べていたところ、マルシェで知り合った方から、新しくオープンする「い菜(な)やカフェ」でスタッフをするから遊びにおいでと声をかけていただきました。行ってみると、カフェで開催するマルシェに自分も出させてもらうことになり、スタッフとしても働くことが決まりました。い菜やカフェでは、マルシェや教室などもやっていて、そこでマルシェに出店されている方や主催されている方など様々な方に出会い、トントン拍子で話が進みました。
また、この古本屋は本店が別にあり、ここは2号店になりますが、夫から「本店に宣伝を兼ねて本棚を借りてはどうか」と言われて本店に行ったところ、オーナーから「文具と本は相性がいいから一緒にやりませんか」と声かけていただき、このお店のオープンにつながりました。
夫を始め、色んな方によいタイミングで背中を押してもらったりチャンスをいただき、今につながっている気がします。

「文具」を選んだのはどうしてですか?

夫と、やるなら北九州でまだやってないことをしないとすぐに潰れてしまうという話をしていて、まだ誰も手をつけてない分野で何ができるのかをずっと考えていました。すると、何か分からないんですが「文具」というのが降ってきて、文具については、大きな店舗はあっても個人のお店はあまりないので、じゃあ文具にしようと決めました。
「文具屋さんをする」と両親や周りに言ったら、「好きだったもんね」と言われ、自分では気づかなかったけれど、何か心の中にあったんだろうなと思います。

お店の準備はどのように進めたんですか?

文具が好きだと気がついたとたん、「あれもみんなに知ってほしい、これも知ってほしい」と好きな気持ちが走って商品を集めて回り、こうなったという感じです。
また、福岡に個人の文具屋で有名なお店が2店舗あって、そこにも話を聞きに行きました。オーナーの方々と面識はなかったのですが、お店に行った時に話すこともあったので覚えていただいていて、起業するにあたり必要な資金や準備、どんなことに気を付けたらよいかなど、色々と教えていただきました。話を聞かせてもらって、疑問が解決したというより、必要な資金が予想以上で金銭的に無理だなと思いました。
実は、最初はお店を持つつもりはなく、「めぐる文具店」という屋号をつけたのも、マルシェなど移動での事業しか考えていなかったからなんです。文具は小さいものが多く、たくさん仕入れないとお店が埋まらないんですが、一度にたくさんは仕入れられないので、マルシェでと思っていました。
それで商品は、市内の文具屋など色んなところに行って買い揃えていたんですが、お店を始めるとなるとそのやり方では無理だし利益も出ないと思い、開業届を出して仕入れ先を確保し、そこで初めて商品を仕入れて少しずつ少しずつ増やしていきました。

商品は、今はどのように仕入れていますか?

今は、問屋から商品を仕入れたり、個人の作家の方から作品を仕入れたりしています。特に紙ものは好きで、北九州にもラッピングペーパーなどが好きな方が絶対にいると思い、色んなマルシェに行って出会った方から仕入れさせていただいています。
門司港のマルシェでは、「作家さんと出会うぞ」と気合いを入れて行ったら、一回目でいきなり作品に一目ぼれして、よい作家さんと出会うことができました。夫の仕事でつながりがある方がお店をオープンしたというので伺った先でも、紙ものの作家さんに偶然出会ったりということもありました。
最終的には、お店を作家さんのアンテナショップにしたいと考えていますが、何かしたいな、ほしいなと思うと、結局自分が動かないと見つからないので、マルシェや色んなお店に行くことが大事だなと思っています。

起業して苦労したことはありますか?

小学校2年生の娘(8歳)と年中の息子(5歳)がいて、仕事と子育てとの両立についてはとても苦労しました。夫は仕事で家にいないことも多く、木曜・日曜・祝日の定休日のうち、木曜日はい菜やカフェでアルバイトをして、日曜日はイベント入れてしまうとお休みがなくなってしまうこともあります。
また、実はちょうど「私もやるぞ」と決めて頑張り始めたころ、上の子の心のバランスが不安定になり、今は子どもとしっかり向き合おうと、そばにいることに専念をしたこともありました。その時は、「ちゃんとあなたのことを見ているよ。あなたのそばにいたいけれど、お母さんも仕事をしてお金を稼いで、あなたたちと楽しいことをしたいから頑張っているんだよ」と伝えました。
それから、自営業の場合、最近はSNSを通じて夜でも問合わせがあることもありますが、答えていたら仕事に終わりがないので、家に帰ったら携帯は触らないことにして、家族と過ごす時など「休む時は休む」と決めています。

仕事をする上で、力をいれていることはありますか?

好きなことを仕事にはできているんですが、お店を構えている以上、来ていただかないとお金にはならないので、「どうやったらここを知ってもらえるか」はいつも考えています。お店の名前を知ってもらうためできることはしようと、マルシェに出たりSNSにも力を入れています。
また、好きだから全ての文具について詳しいかというとそうではないので、自分で勉強して知識をつけていっています。大きな店舗ほど商品数はないけれど、個人だからこそ一つ一つにこだわって置いていて、商品の特徴などを伝えていけたらと思っています。
文具を使っていると、「この機能はよいけれど、ここはこうが良かった」といったプチストレスを感じることもありますが、自分に合っている文具だと仕事がしやすくなることもありますし、自分に合った物を見つけていってほしいなと思っています。なので、私は自分のお店のことを「セレクト文具店」と言ったりもします。
文具というと、昔からあって当たり前のもので生活の順位としては低く、扱いも雑なんです。ですが、最近文具もおしゃれになってきているし、新型コロナウイルスの影響もあって見直されてメーカー側も力を入れています。置いていてもインテリアのような感じで、お気に入りの文具を使うからこそちょっと気持ちが上がるというような、そういう存在につなげていけたらと思っています。

起業してよかったことはどんなことですか?

起業して出会いがすごく増えました。本当に色んな方との出会いがあり世界も広がり、知らないことを教えていただいたり、考え方もものすごく変わりました。
出会いの場としては、い菜やカフェの存在が大きいのですが、開催している教室の先生とお話させていただいたり、来られた方達とお話させていただいたりして出会いが広がった気がします。

起業して変わったことはありますか?

周りに相談するようになりました。疑問に思ったことやこんなことをしたいと思っていたことを口に出すようにしたら、「これだったらこういう人がいるよ」など、どんどんつながるようになりました。北九州では自営されている方も多いし、誰かに聞くとだいたいつながっていることも多いです。
あとは、私も最初はマルシェにどうやって出たらいいのかわからないということがあったので、そういった方々の力になれたら、ここをステップアップをする場所にしてもらえたらと思い、「comichiかわらぐち」でマルシェを主催しています。素敵な作家さんたちも本当に多いんですよ。

マルシェに出店して気付いたことはありますか?

マルシェによって出店料は違っていて、福岡市のマルシェに出るとものすごく売れるのですが、交通費や出店料、宿泊費はかかります。でも、そこでの出会いや北九州では味わえない感覚を味わえることができますし、福岡では作家さんの商品がよく売れて、ちゃんと説明して納得したら買ってもらえるように思います。
福岡と言えば、「紙博(かみはく)」という紙ものに特化したイベントが福岡で開催されたときは、身動きが取れないほどお客さんも多く、こんなに文具が好きな人、紙ものが好きな人がいっぱいいるんだと驚きました。紙の詰め放題や多種類のマスキングテープ、限定ものなどもあり、とても楽しかったのですが、そこでメーカーの方と話せるというのは大きかったです。メーカーの方だからこそ知っている文具の活かし方や使い方もあり、勉強になりました。起業しようと思ったら、やはり出ていって話をするのはものすごく大事だなと思います。

起業を考える女性にメッセージをお願いします。

雇われているわけではないので、「自分で自分のルールを決めていくこと」が大切だと思います。一杯いっぱいになるのも体調を崩すのも自分次第なので、自分で自己管理をすること、自分を大事にすることが大切だと思っています。子どもがいると自分が後回しになりがちですが、順位を上げないと、犠牲にするのは簡単なんですが壊れるのも本当に簡単なんです。自分の心のバランスが取れていないと、子どもの心のバランスも取れないと思っていますし、自分の体調に何かあれば、店を閉めたり周りに迷惑を掛けることにもなります。
また、自分だけで抱え込んで全部しようと思わず、だれかに相談したり、甘える勇気や休む勇気も大切です。私の場合、ヘルニアもありずっと整体に通っていて、誰かに頼るなど心も体もメンテナンスが必要だと感じています。
それから、子どもと過ごす時間を大事にすること。話すときはやっぱり目を見て、少しだけでも時間を割いてあげることが大切だと思います。私も100%できているわけではないのですが、それが頭にあるかどうかで違ってくるのではと思っています。

(2020.12.21)
(平成29年度北九州市女性起業塾参加)